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どうして人工孵化場や放流会がウミガメにとってよくないのか

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ウミガメにとっていいことだと 思っていたけど“虐待”?少し考えてみませんか。

最近ウミガメにとって“人工孵化場”と“放流会”がどうして良くないのか、説明してほしいと質問される機会が増えてきました。

以前は遠州灘海岸でも砂浜に車両が侵入し、ウミガメの産卵巣を危険な状態にしていたという事実があります。(4WDブームの頃ですね)
しかし、現在は砂浜への車両の侵入は禁止されています。(現在では4WDブームは去ってさすがにむやみに自然に踏み込むような無謀に意識的にも慎重になってきました)これまでは止むを得ず孵化場への卵の移植や子ガメの放流会が実施されてきたということもあると思いますが本当に今後も孵化場や放流会を続けなくてはならないのでしょうか?
最近の研究によって、 “人工孵化場”と“放流会”が実は“善意の虐待”となっていることが分かってきました。

こういった事例はウミガメの保護以外にもたくさんあるのではないでしょうか?
例えば、メダカやホタルの放流など、もともとその場にいなかった生物(遺伝子レベルを含めて)を放すこともそろそろやめるべきでしょう。最新の情報を常に仕入れ、柔軟に対応できる活動をしなければなりません。
色々と質問をいただきましたのでブレないように焦点を定めました。
1.自然保護団体といいながら種の絶滅への手助けをしていないか(そもそも本当に保護活動なのかを考える機会として)
2.人工孵化場への移植対象の割合が過大になりすぎていないか(自然の砂浜があり、十分な孵化が期待できるにも関わらず、過剰なまでに移植しすぎていないか=全数、いわゆるやり過ぎ)
3.放流会をリスクが非常に高い昼間に実行していないか
4.人工孵化場から子ガメが自然に脱出できない構造になっていないか
5.保護活動のはずが活動の維持のための活動に置き換わっていないか
6.活動を良い方向へと導くために柔軟に対応できるか

私たちの保護活動もう一度見直しませんか?

※この内容は今後作成予定のウミガメ保全ガイドライン(一般編)の素案です。内容に誤りがありましたらご連絡ください。

imamura@#omotehama.org(メール送信の際は#を取って送信ください。)
コメントへの記入は送信後掲載まで時間がかかることがございます。

移植や放流会の全てを否定しているのではありません。

砂浜の侵食が著しく、産卵してもほぼ卵が死滅する恐れがあるなど
止むを得ず、移植や放流会を実施している場合については仕方のない処置でしょう。
また、環境教育として移植した極めて少数のウミガメの卵を通して、放流会という形でウミガメや海の環境について知ってもらうことも大切だと考えます。

でも、本当に大切なことはなんでしょうか?
私たち表浜ネットワークは考えてみました。

<人工孵化場の問題点>
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豊橋市の海岸に三箇所設置されている“孵化場”
使われた税金は3基で400万円です。

・本当に大切なのは“砂浜”を守ること


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ウミガメは普段は海の中で生活をしています。でも産卵は必ず砂浜で行われます。

孵化場ができることによって、ウミガメが守られるという誤解が将来的にウミガメを絶滅させてしまう恐れがあります。
砂浜がなくなってしまえば、ウミガメは産卵場所を失ってしまい、絶滅するしかなくなってしまうのです。

ウミガメという1種類だけでは彼らは2億年もの間生き続けることはできませんでした。
エサ場となる海や産卵場となる砂浜があってこそ、そして他の生きものたちとバランスをとりあってこそ存続してきました。


・移植自体に大きなリスクが伴う

卵を動かすだけで卵の中で成長中の子ガメが死んでしまうことがあります。
砂浜の温度にもよりますが、産卵後~一週間の間は非常にデリケートです。
過度の温度変化や少しの振動で卵の中の胚が死滅してしまう恐れがあるのです。


・雌雄比が偏る(オスとメスの性別が偏る)

子ガメのオスやメス(性別)は卵のときに経験する砂の中の温度により決定されます。
これは温度依存性決定(TSD)と呼ばれ、臨界温度と呼ばれる29℃付近ではオスとメスがちょうど半分ずつの割合になります。
そして臨界温度より高い温度では全てがメスに、臨界温度より低い温度では全てがオスになります。
砂の中の温度は砂浜の場所や深さごとに違います。
例えば深さの違いによる温度は・・・

・砂の深さごとの温度の違い クリックすると大きな画像がでます。

適正孵卵温度になるまでは卵の成長はかなりゆっくり。
同じ場所でも深さだけが違ってもここまで砂の中の温度には差があります。
5月はまだ砂の中の温度は低めです。6月、7月、8月になると温度は高くなります。

・空気の交換
アカウミガメは1度にだいたい100個前後産卵します。
卵は砂の中でも私たちと同じ様に積極的に呼吸をしています。
施設規模の小さい人工孵化場ではどうしても卵と卵の距離が近くなってしまいます。
十分な呼吸をすることができなければ卵は死んでしまいます。

・呼吸(ガス交換)について
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例えば豊橋市が設置した孵化場の広さは16平方メートル(4m×4m)
表浜海岸の場合は自然に産卵された場合、自然界ではこんなにも近い距離に
産卵巣が隣り合わせることはほとんどありません。

・孵化場では砂の中の孵卵環境が好ましくない
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ウミガメが孵化したのち卵の殻や孵化できずに死んでしまった卵の白身や黄身がそのまま砂の中に残ります。残された白身や黄身などは砂の中の微生物や菌によって分解(腐ります)されます。

分解中の卵の殻や中身が残ったまま、新しい卵が孵化場に入ると新しい卵も一緒に腐ってしまうことがあります。

孵化場の砂の入れ替えなどが必要になるのですが・・・

・管理費は誰が負担するの?

孵化場の砂の入れ替えが必要になるとお伝えしました。たくさんの人が関わり、国や県、市から税金でお金が払われているうちは頻繁に行われるでしょう。
でも、関わる人が少なくなったら?国や県、市から税金が払われなくなったら誰が労働力やその費用を負担するのでしょうか?手をかけなくても十分な効果が持続しなければどうなってしまうのでしょうか?

<子ガメの放流会の問題点>

・興奮期を過ぎてから放流している

生まれてすぐの子ガメは興奮期(Frenzy)といって、一気に沖合いまで突き進む力を持っています。
しかし、それには時間制限(24時間程度をピークに徐々に減衰)があります。
夜に孵化した子ガメたちは放流会の行われる朝や昼を待つ間に大切な興奮期の大半をムダに消費してしまいます。

京都大学大学院情報工学の奥山氏がアオウミガメの子ガメの遊泳速度の変化を計測した研究結果があります。
孵化後、飼育を1日、7日、28日と行った子ガメをそれぞれ6sample 遊泳力を調べたものです。

詳細はこちら

参考:Junichi Okuyama,Study on conservation and enhancement of endangered sea turtles using animal behavioral information,2007

・通常の脱出時間と違う朝や昼に実施される
本来の自然ふ化では・・・
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放流会では・・・
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子ガメの放流会に参加されたことはありますか?
それは何時ごろ行われていましたか?自然の状態では、子ガメは天敵に見つかりにくい夜に海へと向かいます。

・海へと旅立ってからのこと・・・

私たち表浜ネットワークは“蒼き海と砂浜が広がる表浜海岸を後世に伝えたい”そんな想いで活動をしています。
・本当にウミガメを守るにはまず砂浜を守らなければなりません。

放流会で私たちが見守れるのは子ガメが砂浜から海に到達するまでのほんの一瞬です。
放流会を経た子ガメの追跡調査をしている団体はありません。

「実際に海から先のことは分からないけど、もしかしたら無事親ガメとして戻ってくるかもしれない」と自己満足だけで放流していませんか?

後の事が分からないから放流会をしてもいいのでしょうか?判らないから全ての子ガメを放流会に使っても良いのでしょうか?
多くの子ガメが人間の手によって犠牲になっているかもしれません。

少しでも、少しずつでも「ウミガメの生態」を知ることが大切なのではないのでしょうか。そして「ウミガメの生命」を尊重してあげることが、本来の保護・保全に向かうことになるのではないのでしょうか。

自然に孵化し、脱出できる砂浜があるのなら自然の砂浜での孵化を子ガメも望んでいるはずです。
1匹でも多くのウミガメを助けたいその気持ちは非常に良く分かります。でも私たち表浜ネットワークは”できるだけたくさんのウミガメを守りたい”のです。

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以下、関連記事

朝日新聞ネットニュース(5/17)より
 国内有数のアカウミガメの上陸・産卵地である愛知県豊橋市の表浜海岸で、県などが今春設けた孵化(ふか)場をめぐり、地元保護団体などから「マイナスの恐れが強い」と異論が示されている。10年に
名古屋市で開かれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に向け、地元の目玉事業として位置づけられているもの。だが異論を踏まえ、県は保護団体などの意見を聴き始めており、運用のあり方を検討することになりそうだ。 表浜海岸の一画。大きな鳥かごのような構造物がある。アルミ製で幅、奥行き各4メートル、高さ2メートル。上に防鳥ネットが張られている。小島、西七根、高塚町の3地域の砂浜に一つずつ置かれた。卵をこの3カ所の孵化場へ移す。高波や動物から守る趣旨だ。ウミガメの上陸・産卵は5月ごろから秋ごろまで続くため先だって設けた。 設置主体は、愛知県や豊橋市、地元NPOでつくる「東三河自然環境ネット」。環境省の補助を受け約400万円をかけた。県や市は「砂浜が細り卵の流出が増えているうえ、鳥などによる食害も多い」と説明。かえった子ガメが自力で海に帰ることができるよう、海側に面したすき間は広くしてあると言う。市がウミガメ調査を委嘱している市民らから、設置を求める声が出ていたという。 しかし、地元で保護に取り組んでいるNPO「表浜ネットワーク」の田中雄二代表は「ウミガメは、卵の時期に過ごす温度環境によって性別が決まる。産み落とされた場所から移すことで温度などの環境が変わり、性だけでなく、その後の成長に与える影響が懸念される」と指摘する。 こうした異論は、国内の代表的NPO「日本ウミガメ協議会」(大阪府枚方市)も示している。市の担当者も「効果や弊害がどの程度あるかは、やってみないと分からない」と本音を漏らす。  
市や県は4月28日、田中さんや、逆に孵化場設置を求めてきた保護団体などを招き、話し合った。田中さんたちは「孵化場への移植を最小限にするための指針が必要」。県も「(台風など)どうしようもない時に孵化場を使う方法もある」とし、今後も話し合いを進めることになった。(山本晃一)

6/12(金)
毎日新聞より引用
ウミガメ:豊橋の保護団体間、ふ化場運営でズレ 県と市、NPOが協議 /愛知
 ◇解消目指し県と市、NPOが協議
 ◇「1匹でも多くのウミガメを助けたい」「人の過度の関与は避けるべきだ」

 「1匹でも多くのウミガメを助けたい」「人の過度の関与はさけるべきだ」。アカウミガメの卵を守る目的で豊橋市の太平洋岸に設置されたふ化場の運営をめぐり、地元の保護団体の間で考えの違いが表面化している。【中島幸男】

 ふ化場は台風で卵が流されたり、動物などに荒らされたりするのを防ぐ目的。卵を掘り出し、柵の中に入れて自然ふ化を待つ。アルミ製で縦横4メートル・高さ2メートル。同市の小島町、西七根町、高塚町の3カ所にある。市や県、豊橋うみがめクラブ(大須賀哲夫代表)などでつくる東三河自然環境ネットが約400万円で設置した。

 23年間、保護活動を続ける大須賀代表は「卵を移すのはあくまでも自然ふ化が困難な時だけ」と強調。そのうえで「台風などで砂浜が年々減少している。波で卵が流されるのを放っておけない。1匹でも多く助けたい」と説明する。大須賀代表らが参考にしているのが浜松市などで活動するサンクチュアリNPO。いたずらや砂浜への車の乗り入れが後を絶たないこともあって、すべての卵を移している。馬塚丈司理事長は「卵が流されるのに何もしないなら、ウミガメに限らず、保護団体などいらないことになる」と話す。

 これに対して地元のもう一つの保護団体・NPO法人表浜ネットワークの田中雄二代表は「カメを守るだけでなく、砂浜全体を保全しないといけない。卵が実際に流れたかどうかのデータもないのに移すのはどうか。人間は過度に関与すべきでない」と訴える。こうした考えを背景に三重県紀宝町では今年、保護方法を転換した。従来は流出の恐れがある場合などにふ化場に移していたが、小学校の学習用を除いては自然のままにしている。

 団体間の考えの違いの解消を目指し、県や市も加わって協議し、ふ化場へ移す時は「豊橋うみがめクラブと表浜ネットワークによる協議の上、ふ化場へ搬送、移植する」と申し合わせた。

 今月9日、ふ化場に卵が初めて移された。大須賀代表は「満潮になると産卵場所の10センチ近くまで潮が満ちてくることなどから判断した。ネットワーク側には事後に連絡した」と説明する。市環境保全課は「緊急の場合に協議できるかどうかは現場の状況次第」と話す。

紀南新聞
紀宝町立井田小学校(武村俊志校長)の6年生18人は12日、8月26日から9月3日までに76匹がふ化した同校のアカウミガメふ化場を掘り起こして、卵の状態を確認した。ふ化しなかった10個のうち7個は、ほぼカメの形になったものもあり、児童は「がんばったのにかわいそう」などと話し命の尊さを学んだ。

 卵は、6月28日に同校前の井田海岸で産卵した86個を移植した。同校の6年生が夏休みも交代で、地熱を図るなど、観察した。

 児童がスコップで慎重に掘り、カラが出ると「あった、あった」と声を上げた。しかし、死んだ個体が見つかると「残念」と、小さな声でつぶやいた。

 すべて掘り出した後、同校近くの「道の駅紀宝町ウミガメ公園」に派遣されている、日本ウミガメ協議会の谷口真理調査員(25)が「カラだけになったものがふ化し、残りは何らかの理由で死んじゃったもの」と説明した。続いて「この卵はみんなで海岸から移したよね。本当は自然のままの方がいいんだ。今回は、人の手で動かしたのが原因かもしれないし、けど、分からない。みんなも考えてみよう」などと話し掛けた。

 ふ化できなかった卵を見た児童の一人、石垣鈴華さん(11)は「生まれなかったカメがかわいそう。一生懸命世話した子ガメを海に戻したときはうれしかった」と話した。

 同町はこれまで、ウミガメの保護を目的に、卵を同海岸に設置したふ化場と、教育の一環にと同校に移植してきた。ふ化後数日間保管し、明るい時間帯に放流会を開いてきたため、今年も多くの卵を移植した。

 しかし、長年の研究で、卵を移植するとふ化率が低下することや、カメはふ化直後が最も泳力があり、2昼夜保管すると3分の1以下に低下することが判明している。さらに、明るい時間帯の放流がカメにとっては方向性を失い、海に戻れなくなるなど最も危険な時間帯だということも明らかとなっている。

 これらのことを同町関係者は勉強会で学習し、今年、放流会はせず、ふ化すると、その日の暗い時間帯に海に戻している。同校も26日早朝、65匹のふ化を確認し、同日夕方、放流した。その後、3日までに11匹がふ化し、その都度、武村校長が海岸へ運んだという。

【記事参考】
いつもコメントを下さるbeachmolluscさんの記事”ひむかのハマグリ”の中にもウミガメに関する興味深い記事がありますね。
http://beachmollu.exblog.jp/i25/

孵化場の運用(暴走:移植してしまいました)

【参考文献・URL】
Effects of the thermal environment on the temporal pattern of emergence of hatchling loggerhead turtles Caretta caretta.
ふ化直後のアカウミガメCaretta caretta出現の時間的なパターンに対する温度環境の効果
MORAN K L, BJORNDAL K A, BOLTEN A B (Univ. Florida, FL, USA)

京都大学大学院情報学研究科 奥山氏の研究「「興奮期を過ぎた仔ガメは外洋へ行けるか?」」
http://www.omotehama.org/report07/2007/11/3_1.html

Asynchronous emergence by loggerhead turtle (Caretta caretta) hatchlings.
HOUGHTON J D R, HAYS G C (Univ. Wales Swansea, Swansea, GBR)

http://icb.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/20/3/575

http://books.google.com/books?hl=ja&lr=&id=uyeilREzEVQC&oi=fnd&pg=PA193&dq=Ralph+Ackerman&ots=Z4k-AZbVW-&sig=H4Z1YfpWQTuO3uDLY05VNHjYLB4#PPA333,M1

http://www.jstor.org/pss/1442689

http://www.jstor.org/pss/1444175

http://www.springerlink.com/content/l5337554730h2136/

http://www.jstor.org/pss/1446208

ウミガメ生物学(日本ウミガメ協議会)
   http://www.umigame.org/J/kyokasyo/seibutsugaku.htm

やめよう子ガメの放流会(日本ウミガメ協議会)
   http://www.umigame.org/J1/umigame_hogo_houryuukai.html


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